冷たいキス

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一人になった私は小さな木陰(コカゲ)に移動しただけで、その場にしゃがみこんだ。 都会の騒々しさの中で、私の耳は辺り一帯に通る蝉しぐれだけを拾(ヒロ)い上げる。 短い命を燃やしながら響かせるその音色は 今の私にはとても尊(トウト)いものに思えた。 そしてその儚(ハカナ)い叫びは 私をまたふりだしに戻してしまう。 …なんで…祐介なの 人気(ヒトケ)のない病院の裏で ひとしきり泣いた。 夢だったらいいのにという強い願望が 私を夢へと引きずりこみそうになる。 それを現実に引き戻してくれたのは… …市原さんからの電話だった。
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