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どれくらいの時間、市原さんを待っていたのかはわからなかった。
私は病棟には戻らずに、そのまま木の下で小さく体を丸めていた。
日陰と言えど、気温は連日30度前後。
私の顔も体も汗と涙でぐっしょりと濡れていた。
ぐしゃぐしゃの髪でメイクの名残(ナゴリ)もない顔で私は市原さんを出迎えた。
瞼が腫れているのは感覚でわかっていたし、涙のせいで視界がずっとぼやけていた。
私を見つけた彼がどんな表情だったのかもわからない。
少しの間(マ)があった。
「…立てるか?」
市原さんはべたつく私の体を両手で支えた。
私の腕に触れる大きな手のひらに、
今すぐにでもすがり付きたくなるけれど、
この手は…
祐介じゃない。
「…わざわざ…すみません…大丈夫です」
私はよそよそしく彼の腕をほどいた。
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