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「…何でも…ない」
かすれた声に加えて、震える唇に市原さんは二人掛けのソファのクマをどかして、そこに座った。
「…らしくねえな。どうしたんだよ?いつも通りでいけばいいだろ?」
市原さんの言葉が宙(チュウ)に浮く。
「…わかってる」
私の言葉はさらに上へと浮かび上がった。
「…大丈夫だっつうの。俺もいるし。なんてな。すっげえ陰だけど、そばにいてやるから」
その言葉を聞いた瞬間から、自分の意志とは無関係に流れる涙と動悸の乱れで
私の理性は崩れていった。
信じてなんかいないのに
そうだったらどうしようという不安で押し潰されそうになる。
「見つけたよ」そうやってどこかに電話をしていた市原さんが話の途中で携帯を放り投げた。
「…おい、稲森…!?」
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