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私の様子に驚きながら市原さんが何かに気付く。
「…稲森、電話…」
涙でぼやけた視界に入る番号だけの表示は、
つい先ほどの記憶が確かなら、祐介のお兄さん。
祐介ではないことに事態が現実味を帯びていく。
通話ボタンを押して、震える手で耳元までスマホを運ぶ。
お兄さんには私の乱れた呼吸と鼻をすする音だけが聞こえているだろう。
『…美澄ちゃん。今、新宿の北中総合病院にいる。祐介もいるから…。美澄ちゃん、出られるなら…。夕方には家に連れて帰るから』
「…行きます…」
喉の奥から絞り出した声に、お兄さんはとても優しい声で応えてくれた。
『…待ってるよ…』
祐介に言われたみたいだった。
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