「城壁の破壊者」

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「まーたこいつは……」 「カイルさん、兄さんはまだ本調子じゃないみたいですから、そろそろ……」 「ん、ああ!そうだね、アリシアちゃんの大好きなお兄ちゃんを俺みたいな野郎が一人占めしちゃあ、ね」 「も、もう!そういうことじゃないですからっ」 「はは、わっかりやすいなあ。 じゃあマルス、明日また。王都に召集かかってるから、忘れるなよ」 パタン、と閉められた戸の音に気付いた頃には、部屋にはアリシアの姿しか残っていなかった。 「……ん、アリシア。 カイルはどうしたんだ?」 「とっくに帰ったよ、もう。 兄さんは考え事を始めるといつもそう」 少しだけ頬を膨らませながら、アリシアは近くの椅子をベッドまで引き寄せて座った。 「兄さん、どこか痛いところはない? なにかしてほしいこととか、ある?」 わざわざ座ったにもかかわらず、身を乗り出しながら顔を覗きこまれた。 心配性な妹のその顔に、思わず笑みがこぼれる。 「ああ、大丈夫だ。 俺はそれよりもお前の方が心配だよ。 今日は体調、良いのか?」 アリシアは、流行り病を患っている。 主に貧困層の住民がかかる、咳と高熱を引き起こす病だ。 自分は大丈夫だった。だが、アリシアは小さな頃から病弱であったことも災いして、寝たきりになることも多かった。 「うん。お薬も飲んだし、今朝は丘の上の花園まで散歩したんだよ」 笑顔で振る舞っていても、貧困街の薬では気休めくらいにしかならない。 「そこでね、ほら。 この花瓶のお花!」 連日の様に続く馬鹿馬鹿しい戦争。 そんなものに赴くのは、軍兵に払われる幾ばくかの給金で富裕層の高価な薬を買う為だ。 「珍しく異国の方がこっちにまで来ててね、黒い帽子を被ってて……」 両親は早くに亡くなり、自らは病にかかって。 それでも笑顔で日々を生きる妹に、一体、どれだけ救われたことだろう。 「……ちょっと兄さん、聞いてる?」 だから、俺は戦う。 全ては、この優しい妹の為に。
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