「城壁の破壊者」

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ふと、 既視感に襲われた。 「うっ……!」 右腕が熱い。 何かが、右腕の中でうねるように。 「そう、か」 ……そうだ、また。 俺は鎧を容易く砕いている。 それに気付いた途端、心臓の音が鐘のように頭に響いて、また……声が聴こえた。 ーーー我が名を呼べ。 「……ッ!!五月蝿い!!」 声を振り払うように駆ける。 「がはっ!!」 「ぐっ……!!」 まだ呆気に囚われている間抜けなワスイ兵を一人、二人、薙ぎ倒した。 次へと駆けながら、伝令兵に指示を送る。 「伝令!!右翼展開!中央前進!!左翼は中央の援護に回れ!!」 伝令兵は頷き手にした笛を規則的に数回、高らかに鳴らした。 密集方陣において、口頭での作戦指示は困難を極める。 ただでさえ人が多いのだ、戦闘中に一人が大声を上げた所で、誰も意に解さない。 そこで我が軍は予め一方陣に一人、伝令兵を配置させた。 迅速で簡易的な合図、それを聴きつけた中央、左翼の伝令兵にも伝わるように。 こちらの合図に気付いた中央の伝令兵がイヴァンに指示を伝える。 イヴァンはこれを良しとし、カイルにその旨を伝えたようだ。 全軍が指示通り行軍する。 ……いける! これならば多少数で劣っていようと、士気の高いこちらに勝機がある! 陣形を変えたトーアライム軍にじりじりと後退するワスイ軍を見据え、僅かに口角を上げた。 地を蹴りさらに、駆ける。 徐々に密集していくワスイ軍を囲うように、右翼側の方陣が展開していく。 「挟撃する!!皆足を止めるな!!」 剣を地に滑らし、全身で風を切り裂きながら叫ぶ。 オオ!!と響く後ろからの了解を受け、今や一固まりの烏合の敵を狙い澄ました。 ……その時、 烏合の衆の隙間から飛び立つ鳥のように、一人の女性が現れた。
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