「城壁の破壊者」

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「くそ……ッ、」 足を止めず向きだけを無理矢理変えて、駆ける。 先行していたトーアライム兵を稲妻のように斬り伏せる彼女が単身で向かう先は……守りが一番強い中央。 「くそ……ッ!!」 無謀だ。 馬鹿なことをと、誰もが思っているだろう。 ……だが、 言い様のない一抹の不安が拭えない。 「俺に構わず進め!!」 後ろに指示を出し全速力で駆ける。 ……彼女は、もう前陣の目の前まで迫っていた。 「やめろ!!退け!!全員退けぇえ!!」 がむしゃらに叫んでも、誰の耳にも触れはしない。 視線の先……、前陣の目の前に来た彼女はどういうことかピタリと止まり、二刀を腰の鞘へと納めていた。 「「「オォオオオオ!!!」」」 前陣の兵の雄叫が響く。 それと共に、無数の槍と矢が大盾の隙間から彼女へと突き出された。 「…………!?」 背筋にぞくりと、悪寒が走る。 一瞬……大気が張り詰めた感覚に堪らず瞳を閉じた、瞬目ほどの一瞬だった。 彼女の細腕から横薙ぎに抜かれた剣閃は金属の裂ける轟音を置き去りにして、雨のように降り注ぐ矢を、槍を、何百と連なる中央前陣の大盾を……一刀の下に、両断していた。 「「「「……う、うわぁああああ!!!!」」」」 あまりの出来事に統率を無くし阿鼻叫喚となる中央の兵達を、それでもまだ足を止めない自分の視界がただ、真っ直ぐに捉えていた。 そう……驚くほど冷静に、自分はその様を眺めていた。 緋色の髮を揺らし、二刀目を抜きながら静かに前陣に歩み寄る彼女の姿は、こんな場所には不釣り合いなほどに……美しかったから、だろうか。 「……止まれ!」 中央まで辿り着き、彼女の後ろに立つ。 歩みを止め、彼女は静かにこちらに振り向いた。
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