「城壁の破壊者」

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「……驚いた。あなたは、たしかに斬ったはず」 鈴の音のように澄んだ声。 緊縛した戦場の最中だと言うのに、つい、聞き惚れてしまうほどの暴力的な魔性。 身に纏う衣は着物と呼ばれる東洋の衣服……袖の部分が長いフリソデ、というものだろうか。 その耽美な造形は王や貴族達のような低俗な主張性を持たず、ただ、凜としていた。 「……ッ、それ以上は、進ませない」 詰まる言葉を喉から力ずくで引き出す。 気圧されるな、彼女は化け物だ。 しゃなり、と一歩。 彼女はこちらへ歩み寄り、気だるそうに腕を振るった。 「ッ!!!」 無意識に剣を構えていた。 程なく鈍い金属音と共に、見えない何かが剣に重くのしかかる。 ……斬撃、だ。 彼女は、斬撃を飛ばした。 何の気もなく、その辺の草を刈るように、軽々と。 「ぐっ……!!」 剣が、折れる。 受けきれなかった斬撃が右腕のガントレットを砕いた。 歪な紋様が露になる。 「…………」 一瞬だけ瞳を丸くさせ、彼女は二撃目に振りかざしていた腕を下ろした。 「……そう、あなたも」 右腕の紋様に視線を感じ確信する。 やはり、彼女にも見えていた。 「お前も……お前は、知っているのか」 折れた剣を棄て、右腕を前へ突き出す。 もう成り振り構ってはいられなかった。 この紋様はなんだ? お前もどこかにあるのか? 他にも同じような者がいるのか? ……なぜ、俺に? 「それは、」 彼女は何かを言おうとして、くるりと踵を返した。 その視線の先には、大剣を構えたイヴァンの姿。 「……マルス、退け。 やはりお前などには、荷が重すぎた」 砕けた剣を一瞥し、イヴァンは吼える。 その巨体には似つかしくないほどのスピードを以て、未だ無構えの彼女へと躊躇なく大剣を振り下ろした。
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