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剣戟の金切り声が響く。
剣というものは切断するという意味合いではなく、固く、硬く造られた重量に自らの体重を重ねて叩き切ることを目的とした武器だ。
とりわけ大剣は、その見た目、重量共に叩き切るということに関して特化していると言えるだろう。
対して刀とは。
文字どおり切断する事に特化している。
その為極限まで研ぎ澄まされたその刀身自体には、剣のような堅さはない。
両者がぶつかり合うような戦いであれば、剣の方が有利であるのは云うに事足りる程でもないだろう。
「ぬぅあ!!……くそ、小手先ばかりは巧いものだな!東洋の武人よ!!」
弾かれた大剣がキィン、と声を上げ地を砕く。
正面からぶつかり合えば、刀はたちどころに折れてしまう。
それを見越してか、彼女は振り下ろされた大剣の腹を刹那の間で確実に捉え、軌道を逸らし紙一重で避けている。
「チッ!まだだ!!」
止むことのない斬撃の嵐。
その最中で、どうにか転覆を免れている船のように……彼女はゆらりゆらりと体を揺らしていた。
端から見れば、イヴァンが優勢に見えるこの闘い。
だが。
鬼気迫る形相を浮かべるイヴァンに対して、彼女は涼やかな表情を浮かべたままだった。
「……ルス!マルス!!」
ただ、その闘いに見とれていた自分を呼ぶ声に、振り返る。
「大丈夫か!?おい!右腕、痛むのか!?」
心配そうな表情を浮かべたカイルが駆け寄っていた。
「あ、ああ。少し痛むが、支障はない」
少し驚き、カイルに視線を合わせたまま、右手で棄てた剣を探した。
「あ……、」
そうだ、折られてしまったんだ。
その様に、カイルはため息をつく。
「お前……支障ありまくりじゃないか。
ほら、剣持ってきたから。
軍の支給物に良いもん何てないけど、それでも上等な方だ」
カイルから差し出された剣を受け取る。
「受け取ったな。
じゃあ、しゃきっとしてくれよ、マルス。
もう、あの女だけに構ってはいられないんだからよ……」
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