「城壁の破壊者」

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カイルに促され、改めて。 周囲を見渡してみる。 「……そん、な」 いつの間にか密集していたワスイ軍は展開し、指揮を失った右翼陣を呑み込んで迫っていた。 「…………」 地に伏せる仲間達の骸を見て、自身を責める。 数秒間、祈るように目を閉じた。 「……マルス。これは、お前の責任だ」 彼女一人に、気を取られていたせいだ。 指揮を任されていたのに、個人の感情に揺られ軍を見捨てた、自分のせい。 目を開ける。 ……切り換えろ、今はこの状況を打破する事が最優先だろう。 「カイル、右翼の援護に回れ」 「そりゃあいいが、お前はどうするんだよ」 右腕を胸の高さまで上げて、指を鳴らす。 「押し通る」 言葉と共に駆けた。 右腕に剣を持ち替え、何かを叫んだカイルへ無用だと左手を上げる。 中央はもう、戦えないだろう。 イヴァンが時間を稼いでいる内に……彼女は、止められないだろうが。 体勢を立て直すくらい出来ればまだ少し、抑えていられるだろう。 ならば今は、このまま追撃されることを防ぐべきだ。 ーーー我が名を呼べ。 「……ああ、わかってる」 鳴り止まない声に、応える。 本当は、知っていた。 あの時、初めて力に気付いたあの時から。 ……口角が少しだけ、上がっていた。 「……来い。"アレス"!!!」
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