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地に足を着く、ということは全ての行動に置いて起点となるものだ。
得物を振るにせよ、襲撃に備えるにせよ……足場が不安定な状態ではろくに対応することが出来ない。
それは百戦錬磨の兵(つわもの)とて、例外ではなく。
「「「う、うわぁあぁあああ!!」」」
蜘蛛の子を散らしたように惑う兵達を、後はゆっくりと仕留めていけばいい。
尻餅をついた哀れな兵の喉元に剣を突き刺す。
……ずるりと肉を裂く感触に、笑みが溢れた。
「き、貴様も、"イザナ"と同じ物の怪の類か!!」
先ほど見つけた将が吼える。
「イザナ……ああ、彼女のことか?
そうか、やはり彼女も」
それならば、余計な時間はかけていられない。
ぶるぶると震えを諌め、小鹿の様に立つ兵達に溜め息をついた。
「ーーーもういい。興が冷める。
……死ね」
将の頭を兜諸とも斬り飛ばす。
……斬る直前に、何か、言っていたような気がする。
まあ、ただの命乞いだろう。
剣を納め、歩く。
体勢を立て直し始めた兵達は、最早向かってくる気力も無いようだ。
そのまま敵の中を真っ直ぐに進み、出血からか腰を抜かしていた右翼の仲間に声をかけた。
「おい、大丈夫かおまえ……」
「ヒッ……ァ、ばっ、化け物!!」
差し出した右腕がピタリ、と止まる。
「ぉお前はッ……!!ァ……だから、嫌だったんだ……ッ!!薄汚い……ヒッ、貧困層の!こんな、ッ……得体の知れないッ!ばっ、化け物め!!」
脈絡の無い、ただ感情をぶつける為だけに発された言葉。
「ーーーああ、」
この人は、傷なんてついていなかった。
出血しているように見えたそれは……自分が斬り裂いたワスイ兵の返り血がかかっているだけだった。
「ーーーそうだ。俺は」
言いかけて、また止まる。
最早人を見るような目をしていなかった仲間の後方から、カイルが駆けてきた。
「マルス!!おい!!
何してんだ!!納めろ!!馬鹿野郎!!!」
カイルに肩を揺さぶられて、気付く。
……いつの間にか、右腕に剣を携えていた。
「カイ、ル……俺は……」
それと同時に、強烈な目眩に襲われた。
……立って、いられない。
まだ……俺は、まだ……戦は……。
ゆっくりと、体が落ちていく。
カイルの呼び声を遠くに聴きながら、最後に映った景色の先で……イヴァンの首が斬り落とされるのを観た。
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