「城壁の破壊者」

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ーーー小さな自分と、カイルがいた。 隣にはカイルのご両親と、アリシアが笑いながら、俺達の王さまごっこを眺めている。 これは……遠い、記憶。 「マルス王さま!わが国のとーぶはひんけ……ひんこんなんです!」 「よーし超騎士団長カイルよ!わたしがおかねをだそう!とーぶをふっかつさせるのだ!」 「はっはっは、マルス王子がいればこの国は安泰だなあ。ミリーア」 「セルゲイ。マルス君は王子じゃなくて王様よ、またアリシアちゃんに怒られちゃうわよ?」 「わたしおひめさまー!」 「あっ、ごめんね。アリシア姫ちゃん」 幸せな時間だった。 両親が亡くなって悲しい時もあったけれど、カイルのご両親がいてくれたから。 全てが色付いて、全てが輝いて見えていた。 「なあなあ、マルス!おれのかけいにはね、かみさまがだいだいいらしてくれてるんだぜ!」 「かみさま?」 「うん!ほんとは家族いがいはなしちゃいけないことなんだけど、マルスはおれの弟分だからな! とうさまやかあさまにはないしょだぞ、これはごくひのやつだ」 「……わかった。ないしょにする」 そう言うと、小さなカイルは脚の裾を上げた。 ……そうだ、あの時は変な落書きをしてるとか思って、気にも留めていなかったけれど。 「へれれすってゆーんだぜ!へんな名前だろっ」 「……うん、へん」 「へんなかみさまだけど、うちをまもってくれてるんだって! でもあたまよくないとまもってくれないから、おれ、がんばって勉強してるんだ!」 「へー」 「マルス。これはごっこでやめちゃだめだぞ、おれたちの未来の予行えんしゅ……れんしゅうなのだ!」 「わたしもいれてー!」 「わわっ!アリシアちゃんっ!う、うん!いれてやる!そのときはおれのおよめさんにしてあげるよ!」 「やーだー。わたしはおにいちゃんのおよめさんだもーん」 「……マルス。やっぱりいまのはなしはなしだ!」 「え、えー!?」 子供の頃の、そんな、他愛もない約束。 こんな日々が、何時までも続くと思っていた。ーーー
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