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「よお。お目覚めかい、マルス君」
揺りかごに揺られているような、奇妙な感覚。
朦朧とした意識を覚醒させる。
平原は闇に包まれて、いつの間にか日が落ちていたようだった。
「まったく……マルスは、あんな状況で眠っちまうん、だからなあ……」
身震いするような静けさの中、なぜか、自分はカイルにおぶさっている状態で。
「……カイル、戦争は……どうなった」
少しだけ息の荒いカイルの顔は、見えない。
「……なあ、覚えてるか。
前、もこうして……なんだったっけ。
……そうそう、あれ、だ。東部の花園までみんなに、内緒で行った時……」
カイルは、答えなかった。
「お前転んじゃって、さ……びーびー泣いて、俺も、つられて泣きながら、おんぶしてやっ……たんだよ…な…ははっ、覚えてねーか」
「……おい、カイ……ッ!?」
体勢を変えた途端、左手にぬめりとした感触が広がった。
少しだけ前のめりになって、カイルの身体を見下ろす。
……白銀の鎧は、血に染まっていた。
「……ああ、ばれちゃったな」
カイルは首だけ振り返して、にっと笑う。
……そのまま、程なく視界は地に打ち付けられた。
ゴロゴロと転がりながらも立ち上がり、倒れたままのカイルに駆け寄る。
「……っおい!カイル!!お前……あぁ……くそ!」
うつ伏せのカイルをゆっくりと仰向けにして呼び掛ける。
……腹を、貫かれている。
「くそ!誰か!誰……、」
辺りは、ワスイ軍とトーアライム軍の兵達の骸で埋め尽くされていた。
「…………な」
口が開いたまま、閉じない。
……一体、何が。
意識を失っている間に、何が起こったというのか。
「メルグリー、スだ……あ、いつらが……ワスイの、援軍だとか、言ってよ、蓋を開けてみれば……皆殺しだ」
絶え絶えの息。
左腕のガントレットを外し、シャツの袖を引きちぎる。
止血のあて布代わりに腹部に巻くと、カイルは小さく呻いた。
「ぅ……、マル、ス。よく、聞けよ」
「喋るな、手元が狂う……頼むから……」
きつめに布を縛りながら、自分に言い聞かせる。
カイルは助かる。
きっと大丈夫……大丈夫、大丈夫だ。
だから、そんな、
今際の際みたいなことを、言わないでくれ。
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