「城壁の破壊者」

33/53
前へ
/121ページ
次へ
「よお。お目覚めかい、マルス君」 揺りかごに揺られているような、奇妙な感覚。 朦朧とした意識を覚醒させる。 平原は闇に包まれて、いつの間にか日が落ちていたようだった。 「まったく……マルスは、あんな状況で眠っちまうん、だからなあ……」 身震いするような静けさの中、なぜか、自分はカイルにおぶさっている状態で。 「……カイル、戦争は……どうなった」 少しだけ息の荒いカイルの顔は、見えない。 「……なあ、覚えてるか。 前、もこうして……なんだったっけ。 ……そうそう、あれ、だ。東部の花園までみんなに、内緒で行った時……」 カイルは、答えなかった。 「お前転んじゃって、さ……びーびー泣いて、俺も、つられて泣きながら、おんぶしてやっ……たんだよ…な…ははっ、覚えてねーか」 「……おい、カイ……ッ!?」 体勢を変えた途端、左手にぬめりとした感触が広がった。 少しだけ前のめりになって、カイルの身体を見下ろす。 ……白銀の鎧は、血に染まっていた。 「……ああ、ばれちゃったな」 カイルは首だけ振り返して、にっと笑う。 ……そのまま、程なく視界は地に打ち付けられた。 ゴロゴロと転がりながらも立ち上がり、倒れたままのカイルに駆け寄る。 「……っおい!カイル!!お前……あぁ……くそ!」 うつ伏せのカイルをゆっくりと仰向けにして呼び掛ける。 ……腹を、貫かれている。 「くそ!誰か!誰……、」 辺りは、ワスイ軍とトーアライム軍の兵達の骸で埋め尽くされていた。 「…………な」 口が開いたまま、閉じない。 ……一体、何が。 意識を失っている間に、何が起こったというのか。 「メルグリー、スだ……あ、いつらが……ワスイの、援軍だとか、言ってよ、蓋を開けてみれば……皆殺しだ」 絶え絶えの息。 左腕のガントレットを外し、シャツの袖を引きちぎる。 止血のあて布代わりに腹部に巻くと、カイルは小さく呻いた。 「ぅ……、マル、ス。よく、聞けよ」 「喋るな、手元が狂う……頼むから……」 きつめに布を縛りながら、自分に言い聞かせる。 カイルは助かる。 きっと大丈夫……大丈夫、大丈夫だ。 だから、そんな、 今際の際みたいなことを、言わないでくれ。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加