「城壁の破壊者」

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「メルグリースは……、進軍した」 弱々しく……だが、はっきりとこちらを見据えて、カイルは言葉を紡ぐ。 「……東部は、もう……攻め、込まれてる。 なあ……、お前の居、る場所は……ここじゃあ、ないだろう?」 アリシアの顔が、浮かんだ。 呻き、悪態を吐きながら、カイルは身体を無理やり起こす。 「俺は……大丈夫だから、少し休めば、ほら、な。 ……行け」 「連れていく。アレスを呼べば、そうすればお前一人くらい、」 「……ダメだ。もう、あの力は……使うな……!」 掴みかかるように、カイルは身を乗り出す。 「……カイル、お前は。何か知っているのか」 荒い息を整えて。 カイルは静かに俯いた。 「……走れ。アリシアちゃんを、護ってやれ。 まだ、まだきっと……間に合う」 「カイルッ!!」 「走れ!!……全部終わったら……絶対……ッ、話してやるから……、ごくひのやつを、さ」 そう言って、カイルは笑った。 ……あの時の、子供の時のような、無邪気な顔で。 「……わかった。 少し、少しだけ、待っててくれ。 必ず迎えに来るから」 「……ああ。頼んだぜ、マルス君」 茶化すようにまた、カイルは笑った。 無言で頷き、踵を変えて走り出す。 一度も振り返らずに、一心に前だけを見つめて。 ……後ろで、がちゃりと鎧が地に落ちる音を聴いた。 それでも、振り返ることはなかった。 零れ落ちる雫を力いっぱいに拭って、ただ、足を機械のように動かした。 「……ぅ、うあぁああぁあ!!!」 堪えきれなくなった感情をぶちまける。 骸の積まれた平原はただ、静かに。 自分を見つめているような気がした。
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