「城壁の破壊者」

35/53
前へ
/121ページ
次へ
硝煙の臭いがする。 半壊した家々に、まばらに倒れるメルグリース軍の兵とトーアライム軍の兵……そして、東部の住民達。 南部と西部の方からは煙が上がり、北部の王都からは合戦の音が響いている。 この規模からして、メルグリースは大軍を率いて来たのだろう。 援軍などと……初めから、トーアライムを潰す為だけに、ワスイを利用していたのだ。 「……ッ、アリシア!」 駆ける。 小さな家へ、たった一人の家族が……病弱な妹が居る場所へ。 「…………」 立ち止まり、息を整える。 小さな家は周りの例に漏れず、無惨に壊されていた。 破れているドアを蹴飛ばし、中に入る。 「アリシア!どこに居るんだ!!アリシア!!」 居間、水場、部屋……家の何処にも、アリシアは居なかった。 弾けるように家を飛び出して、辺りを見渡す。 「そうだ、丘の、花園」 あそこによく、アリシアは行っていた。 近くで剣を突き刺されて絶命していたメルグリース兵から剣を抜き、駆ける。 「ッ!?まだ生き残りが居たか!!」 花園への道は、メルグリース兵の残党が鎮座していた。 数十人、といったところだろうか。 ……どちらにせよ、今更考える必要はない。 「退け……ッ!!」 足を止めず、斬り込む。 間髪入れず振り回した刃は即座に周りを囲み始めた数人を散らした。 「化け、物……」 畏怖する敵を蹴り飛ばし、吼える。 「……退けと、言っているだろう!!」 右腕で振り下ろし、左腕に持ち変え後方へ斜めに斬り払う。 空いた右腕は近くにいる相手を掴み引き寄せ、左手の中で握りを回し逆手になった剣を突き刺してまた右腕に。 深く突き刺さった剣を力ずくで引き抜きながら横へ薙ぎ払う。 そうしていく内に……時間にして数分秒ほどの間に、数十人のメルグリース兵達は地に伏せた。 「アリシア……どうか、無事でいてくれ」 おびただしい返り血を拭うこともなく、ただ、駆ける。 月の光を頼りに走る花園への道は、ざわつく胸中を静めてはくれなかった。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加