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トーアライム東部にある丘の花園は、他国との貿易が盛んなことも相まって多種多様の異国の花が一年中咲き乱れている。
四季折々に様々な顔を魅せるここは、まだトーアライムが東西南北に分けられる前までは多くの人々で溢れていた。
それも、昔の話。
東西南北に分かれた後、ここに来る者は王から形ばかりの手入れを任された管理人と、極僅かの東部の者しかいない。
だが、だからこそ。
人が少なく、優しい風の吹き抜けるここを……病弱故に友人がいなかったアリシアは、好んでよく出向いていた。
「……はッ……はッ……」
花園の目の前まで辿り着いたところで、立ち止まる。
花園は荒らされていなかった。
下の道に居たあの兵達が、きっとあのままここへと進むつもりだったのだろう。
小さく溜め息を吐き、ゆっくりと歩く。
月夜に輝く花々は幻想的に揺れ、風にその香りを乗せて鼻腔をくすぐる。
……ここだけ、まるで違う世界のようだ。
呆けてしまいそうになる自分の頬を軽く叩きながら、花園の中央まで歩いて辺りを見渡す。
……少し外れた所に、花が人一人くらいの範囲で倒れている場所を見つけた。
それがアリシアだとわかるのに、時間はかからなかった。
「アリシア!!」
駆け寄り、アリシアの身体をゆっくりと起こす。
……良かった、外傷はない。
「……ぅ、兄、さん。
良かっ、た。兄さんが……無事で」
「……帰るって、言っただろ」
だが。
アリシアの身体は、酷い熱を帯びている。
……流行り病だ。
「アリシア……薬は、飲んだのか?」
「……飲んで、ない。
東部に……矢が、いっぱい飛んできて、私……走って、それで、」
「……わかった、もういい。
よく、頑張ったな」
優しくアリシアの頭を撫でる。
アリシアは安心したように、気を失った。
……この様子だと、家にある薬では、きっと。
「……王都」
呟き、アリシアを背負う。
あそこなら薬がある。
医者もいる。
……だが、まだ王都は。
ーーーそれが、どうした?
頭に響く声に、笑う。
そうだ、また。
蹴散らせば良いだけのこと。
「……揺れるぞ、少し、我慢してくれ」
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