「城壁の破壊者」

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アリシアを背負い、中央まで駆けた。 トーアライム国の東西南北へと通じる十字路まで進んだところで、足を止める。 メルグリース軍とトーアライム軍は、未だ戦っていた。 状況的に、トーアライムが圧しているようだ。 前進をする千五百余りのトーアライム軍に対して、後退を繰り返すメルグリース軍は数百程度。 四方に戦力を分散させたメルグリースの軍師の采配は間違っていた、ということだろう。 「アリシア、少し待っててくれ」 近くの木陰にゆっくりとアリシアを下ろして、行く手を見据える。 「……邪魔だな」 鎧を外し、剣だけを持ち駆けた。 こんな姿で一騎当千できるほど自惚れてなどいないが、"一騎当百"ならば、身軽な方が楽でいい。 (あの力は……使うな……!) ……カイルの言葉が、頭を掠めていた。 「後方より単身でこちらに向かう者が!」 「一人だと?馬鹿が!メルグリースも舐められたものだな!」 吠える敵兵の群れに飛び込む。 姿勢は低く、相手の得物を打ち上げるように振る。 キィン、という音と共に無防備になった相手の下段、中段、上段を順々に打ち抜いた。 断末魔を聴く暇などない。 左右から飛ぶ槍が頬を掠めるのを感じ、跳ね避け蹴り上げる。 後方から迫る兵を掴み、勢いを殺さず前へと押し出せば、槍兵の喉元にその剣は向かっていく。 「馬鹿な……ッ」 「トーアライム軍が迫っています!」 「ええい!一人に何を手間取っているのだ!早く殺せ!!」 「む、無理です……あ、あいつは、化け物だ……!!」 大群と、ただ一人の挟撃。 普通ならばあり得ない……そんな状況で、メルグリース軍は成す術も無く全滅した。 トーアライム軍の兵達の歓声を遠くに聴きながら、かすり傷だらけの……それでも致命傷一つない自分の身体を眺め、笑う。 ーーーああ、お前は化け物だ。
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