31人が本棚に入れています
本棚に追加
アリシアを背負い、中央まで駆けた。
トーアライム国の東西南北へと通じる十字路まで進んだところで、足を止める。
メルグリース軍とトーアライム軍は、未だ戦っていた。
状況的に、トーアライムが圧しているようだ。
前進をする千五百余りのトーアライム軍に対して、後退を繰り返すメルグリース軍は数百程度。
四方に戦力を分散させたメルグリースの軍師の采配は間違っていた、ということだろう。
「アリシア、少し待っててくれ」
近くの木陰にゆっくりとアリシアを下ろして、行く手を見据える。
「……邪魔だな」
鎧を外し、剣だけを持ち駆けた。
こんな姿で一騎当千できるほど自惚れてなどいないが、"一騎当百"ならば、身軽な方が楽でいい。
(あの力は……使うな……!)
……カイルの言葉が、頭を掠めていた。
「後方より単身でこちらに向かう者が!」
「一人だと?馬鹿が!メルグリースも舐められたものだな!」
吠える敵兵の群れに飛び込む。
姿勢は低く、相手の得物を打ち上げるように振る。
キィン、という音と共に無防備になった相手の下段、中段、上段を順々に打ち抜いた。
断末魔を聴く暇などない。
左右から飛ぶ槍が頬を掠めるのを感じ、跳ね避け蹴り上げる。
後方から迫る兵を掴み、勢いを殺さず前へと押し出せば、槍兵の喉元にその剣は向かっていく。
「馬鹿な……ッ」
「トーアライム軍が迫っています!」
「ええい!一人に何を手間取っているのだ!早く殺せ!!」
「む、無理です……あ、あいつは、化け物だ……!!」
大群と、ただ一人の挟撃。
普通ならばあり得ない……そんな状況で、メルグリース軍は成す術も無く全滅した。
トーアライム軍の兵達の歓声を遠くに聴きながら、かすり傷だらけの……それでも致命傷一つない自分の身体を眺め、笑う。
ーーーああ、お前は化け物だ。
最初のコメントを投稿しよう!