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幾らか歩いて、一息、深呼吸をする。
鍔迫り合いを重ねる仲間と敵兵士の群れを一瞥し、剣を肩の位置まで構えた。
……このまま後ろから敵兵を貫く。
軋む体に無理矢理力を込め、足元に小さな土煙を起こしながら一気に駆けた。
持ち手を強く握り直す。
剣が届くまであと十歩、五歩……。
敵はまだこちらに気付いていない……どうせ、気付いたところでもう遅い。
僅かに口角を上げ、構えた剣を前に突き出した。
一瞬の間。
僅かな、本当に僅かな気の緩みだった。
敵兵の陰から、女性の姿が見えた。
戦場には似つかわしくない美しい服を着て、兜も鎧も着けず、両の手に持つ刀を軽々と振り回す姿は、まるで何かの舞をしているかの様で。
そして、
彼女がこちらに向かって来ていると分かった瞬間、彼の視界はぐるりと回転した。
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