「城壁の破壊者」

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ゆらり、と立ち上がる。 矢が幾つも背中に刺さるが、最早痛みなど感じなかった。 振り返り、矢の雨に向けて剣を構えた。 ……一度だけ、一度だけ見たあの技。 目を瞑り、脳裏に浮かぶ光景のまま、腕を振るう。 空気の抵抗を身体全体で感じながら……それを、力ずくで制す。 「……つぁッ!!」 それは、一迅の風。 力任せに切り裂かれた空間は量子が元の場所を求めて急速に動き、その流動は暴風となる。 矢は吹き荒れる風に巻き込まれ、バラバラと力なく目の前の地に落ちた。 「ーーーなんだ、出来ると思ったんだがな」 笑みを溢し背中の矢を一本ずつ抜きながら、門へと歩く。 「なっ……何をした!?貴様!!」 上の方で何か聴こえてくる。 嗚呼、五月蝿い。 ……堕とすか。 「弓兵ーー!!射てーー!!!何をしている!!」 「む、無理です!!真下では狙いが……!!」 「ならばあそこで倒れてる女を射てば良いだろう!!いけぇえええ!!!」 何を言っているのか知らないが……もう、何もさせはしない。 門に剣を打ち付ける。 大きな衝撃音と共に、剣が砕けた。 「…………」 刀身の無い剣を一瞥し、棄てる。 同じ所に、拳を打ち付ける。 骨が砕けるような音がするが、砕けた先から治る為まったく構いはしなかった。 一回、二回、三回……。 徐々にひび割れていく門と、後ろに何か重いものが幾つも堕ちる音を聴きながら……勢いをつけて蹴り抜く。 ガラガラと大きな音をたてながら、地鳴りと共にそれは崩れ落ちた。 踵を返し、骸の山を避けもせず真っ直ぐに歩く。 「ぐゥ……ヒッ、あぁ……き、さま……!!」 ……足元に、腕が砕けたあの側近がいた。 「化け、物……!!ぅう……あぁ"……化け物め!!」 化け物、化け物と。 語彙力のないことだ。 「ーーー何を今更。 ……お前が、言ったんだろう?」 足を、軽く上げる。 「ヒアッ……やめっ……!?!?」 「アリシア、少し、痛むぞ」 足に刺さった矢を、慎重に抜く。 小綺麗なちょうどいい布が堕ちていたので、それを傷口のあて布にした。 「さあ……行こう」 アリシアを背負い、王都へと足を運んだ。
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