「城壁の破壊者」

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「頼む、アリシアを診てやってくれ」 「……私も医者として、患者は全て救いたい。 だがこの戦争で負傷兵が溢れているんだ、これ以上は……」 「ーーーならば、減らせばいいじゃないか」 「……え」 「……いや、何でも、ない。 すまない、金は必ず払う。 ……頼む」 「……わかった。出来うる限り、その子を看よう」 「ありがとう……恩に着る」 医師に頭を下げ、病院を出る。 街灯の灯る大通りに住民の姿はなく、武装したトーアライム兵達が退路を断つように立ち並んでいた。 ……彼等の瞳には、恐怖の色が見てとれる。 「しっ、城へと、ご同行願おう!」 声を裏返しながら、槍兵の一人が近づく。 切っ先が震えている……溜め息をつき、槍を払った。 「……ああ、行くよ」 建物の窓から、誰かが外を覗き見ているのを視界に入れながら大通りを進んだ。 ……不意に、上から石が投げられる。 すんでの所で、無意識に右腕が動き石を掴んだ。 「みつけた……!父ちゃんを殺したやつ!」 「だめ!ロイター!やめなさい!」 声のする方へと視線を向け、目を見開く。 "綺麗な嫁と、小生意気だがかわいい息子がいる。" ……彼の、家族。 「父ちゃんを……父ちゃんをかえせ!!」 子供は、また石を投げる。 瞳いっぱいに涙を溜めて。 「ロイター!!ああ……どうか、どうかお許しを……!」 二回目に投げられた石は、意識して避けなかった。 「……すまない、すまない」 立ち止まり、頭を下げる。 眉の真上あたりから血が流れ、ぽたぽたと地面に垂れていた。 ああ……ここの人々の考えは、間違っていなかった。 数秒間の沈黙の後、ぴしゃりと閉められた窓の音を聴き、また、歩き出す。 城へと続く道は明るく照らされていたが……どうにも、暗く見えて仕方なかった。
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