「城壁の破壊者」

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「貴様ら……はなあッ!!ただ黙ってッ!!」 王は言葉と共に力一杯足を動かしていた。 指が砕ける音がする。あばらも、何本かイッた様だ。 「死ぬまでッ!!私にかしづいていればよかったんだッ!! どうしてくれる!!この国はッ!!貴様の……せいでなあ!!」 衝撃が終わった。 肩を上下させ、王は息を整えてながら、近くの兵に顔を向ける。 「……おい、そこのお前」 「はっ!」 「その娘を脱がせ」 「……は?」 動揺する兵に諭すように、王は笑う。 「今ここで、辱しめろ。 なあマルスよ……お前には絶望という褒美を与えねばな……」 にやりと、卑しい笑みが近づく。 ……どうして。 どうしてこうなってしまったのか。 ただ、精一杯……生きていた。 貧しくとも、罵られようとも……アリシアと、カイルがいて……自分がいる。 そんな毎日を、当たり前の日々を望んでいただけだったのに。 ーーーそれが、人というものだ。 なあ、マルス。 お前は、"こんなモノ"とは……違うだろう? 「……あ、ぁ」 頭に響く声は……自分の中で、どうにか。 今にも切れそうな細い糸のような感覚で保っていた、最後に残っていた何かを、ぷつりと切り落とした。 「"ァ……レス"」 「んん?ははっ、もう声を出すこともできぬか。マル……ッ!?」 王の襟首を掴み、引き寄せる。 ただ……あの日々に、戻りたい。 全てが輝いて、色づいていたあの日々に。 「……お前が、邪魔だ……!」 「貴様……ッ!!」 そのまま、床に叩きつける。 アリシアへと近付いていた兵へ一足で駆け、蹴り飛ばす。 後方で呆気に取られている槍兵の槍を奪い取り、柄の部分で鎧の真芯を突いた。 跳ね飛ぶ槍兵を尻目に半回転し、残り十数人をひと振りで薙ぎ伏せる。 「ぅう……ハァッ、き、貴様……こんな事をして……ただで済むと……ッ!!」 鼻血を垂らし、前歯の折れた滑稽な王は腰が抜けたままじりじりと後ろに下がる。 ゆっくりと、歩み寄っていく。 「……へ、兵は!?誰か!!誰かおらんのか!?」 「ーーー無駄だ。もう誰も此処にはいない」 「~~~~ッ!!」 声にならない声を上げ、王は最後に……笑った。 「……終わりだな。私も、国も……貴様等も」 「…………、そうだな」 ……そうだ。 何もかも、終わってしまったのだ。 槍の先に紅い雫が流れる。 光の映らない瞳でただ、それを眺めていた。
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