「城壁の破壊者」

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夢を、視ていたような気がする。 いつしかシャンデリアの火が消え、骸と闇が横たわる城に月明かりが射し込むだけの世界。 そこにカツ、カツ、と響く足音が聴こえた。 音のする方へと視線を向ける。 ……月明かりが、白銀の影に反射していた。 「マルス王、我が国の東部は貧困なのです……なんてな」 影は。 よく知っている声で、語りかける。 「派手にやっちまったなあ。マルス」 「カイル……」 その顔も。 見知ったそれだった。 「本当は、お前には知らないままでいてほしかった」 がちゃりと、鎧を外しながらカイルは言う。 足の裾を捲り、幼い頃に一度だけ見たそれをこちらに見せるように向けた。 「"聖痕(スティグマータ)"って言うんだ、これ。 ……昔、神々に導かれた人々、神使がその身に刻んだとされるモノらしい」 「聖、痕……」 「お前も、もうわかってはいると思うけど。 これが刻まれた人は、人であって人じゃない。 神々の意志を受け継ぎ、力を行使する……化け物になる」 「一体……何の為に? なんで……俺、に?」 「……さあな。神様のお考えなんて人にはわからない。 ……ただ、とんでもない"何か"を起こそうとしてる奴がいて、俺達は……その為に必要なんだとよ」 肩を竦めながら、カイルはこちらへ歩み寄る。 「……何でだろうなあ」 アリシアの顔を覗き込み、カイルは俯いた。 「よりにもよって……俺達は、近すぎだろ。くそ」 「カイル……?」 呼び掛けても、カイルは応えない。 「……アリシアちゃん。笑って逝けたんだな」 「…………。」 カイルはアリシアの顔を撫で、名残惜しそうに離してから呟いた。 「……もうすぐ、"戦乙女"が来る。 お前だけでも、逃げてくれ」 「戦乙女……?」 聞いたことのないその名に戸惑う。 何を言っているのか、わからない。 ……ああ、もう。 わからないことだらけだ。 「……"ヘルメス"。」 そう小さく呟いたカイルの足に、淡い光が宿った。 「ーーー僕は戦闘向きじゃないんだけどね……。 まあでも、カイルの頼みだ。 行っていいよ。アレス」 カイルの口から、カイルではない声が響く。 そして、それに呼応するように、口は開いていた。 「ーーーヘルメス。 "アース神族"はどこまで進めている」 カイル……ヘルメスは、首を傾け笑った。
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