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もうすぐ夜が明ける。
丘の花園から見る景色は空と大地……光と闇の境界線を繋ぐ架け橋のように見えて、少しだけ笑う。
「……ちょっと、早いが。
約束、だからな」
黄昏の光に映える白い花々の中に、アリシアをそっと降ろした。
両手を組ませ、足を綺麗に伸ばす。
「こう見ると……ただ、眠っているだけみたいだな」
髪を撫で、整えながら呟く。
……現実逃避のそれではなく、ただ、思った事が口をついて出ただけだ。
「…………」
何故、あの城を何の躊躇いもなく出たのだろう。
ヘルメスという神を、アレスのような力を持っているとはいえ、いつもの自分なら、一人残るカイルを見捨てて逃げるという選択肢などあり得なかったのに。
何故、わからないことをわからないままにしたのだろう。
アレスに動かされて……なんて、ていの良い言い訳だ。
止まろうと思えば、いつでも立ち止まることは出来たのに。
「俺は……」
見捨てたのだ。友を。
わからないことを。
自分の命可愛さに。
得体の知れない何かから逃げるように。
何もかもをかなぐり捨てて、自分の為だけに。
(それが、人というものだ)
アレスの言っていたことを思い出す。
「……醜い」
……俺も、王やあの貴族たちと。
変わらない。
不意に、視界の端で淡い輝きを捉えた。
……陽が、昇ってきたようだ。
何とはなしに、そちらへと顔を向ける。
「……縁が、あっちゃったな。
お兄さん」
陽は……まだ、昇っていなかった。
そこには、黒い帽子を被った……あの青年がいた。
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