「城壁の破壊者」

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「お、前……、」 言葉に詰まる。 青年の背には剣に六つの羽が生えたような紋様が藍色に輝きながら、"浮かんでいた"。 ……そう、肌に浮かび上がるのではなく。そのままの意味で、浮いている。 「やっぱり……その子のお兄さんだったんだね」 青年はどこか憂いを帯びた笑みを浮かべ……透き通る視線は全てを見透かしたかのように、アリシアを捉えていた。 「ここはさ、この時期特別なアイリスの花が咲くんだ。 ……その子の周りに咲いてる白い花、珍しいんだぜ」 青年は呟きながら、背に浮かぶ剣に手を当てる。 紋様に波紋が広がり、青年の手の内に収束するように形を変え始めた。 「ごめんな……お兄さん。 ずっと見てたよ。あんたのこと」 青年の手に収束した紋様は螺旋状に渦巻き、蒼い輝きを放ち始めた。 「ーーー"アレス"」 知らず、呟いていた。 螺旋状に渦巻いた紋様は剣の形に形成され、青年の手に納まっている。 ……あれは、危険だ。 確証は無いが……あれは、そう思ってしまうほどのエネルギーを持っている。 「……可哀想な人だ。 あんたには、誰も教えてくれる人がいなかった。 訳のわからないままに力を得て、流されるままに力を使って……全部、失っちまったんだよな」 青年は一歩、一歩と近づきながら……言葉を紡ぐ。 「お前は……なんだ。何を知ってる。 これは……全部、お前が仕組んだのか」 立ち上がり、身構える。 武器となるようなものは持っていない。 あの剣のような紋様を奪い取れればいいが、得体の知れないものを扱える自信はない。 ……そもそも、あれは触れるのだろうか。 青年は一笑する。 「ははっ、そんなこと。 ……誰が好き好んでやるかよ」 怒気を孕んだ表情。 青年は続ける。 「無知は罪だと云うけどな。 俺からすれば、知らないことは罪じゃない。 ……けどな、選んだことに責任は付き物なんだ。 あんたは、知らなかったとは言え……こうなることを、自分で選んだんだ。 "知らないままでいる"ことを、選んだんだよ」
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