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最初に、触覚。
弧を描く様に頭から落ち、兜が取れた。
次に、視覚と聴覚。
回転した視界は先程まで踏みしめていた大地を捉え、
けたたましい怒号は何処か別の場所で響いているのかと錯覚しそうになる程遠く聴こえた。
そして、嗅覚と味覚。
地に打ちつけた口の中に土と血の味が広がって初めて、自分が斬り払われたのだと自覚した。
「……う、あ」
呻き声を上げた頃には、五感の全てが襲いかかっていた。
……何が起こった?
地に伏せたまま、思考を巡らす間もなく見開いた瞳に、彼女の姿が映った。
「……さようなら」
ただ、一言。
それだけで全てを理解した。
……信じがたいことだ、それこそ神の成せる業。
だが、あの女性は確かに。
剣閃すら置いていく速さを纏い一刀の下、自分を斬り払ったのだ。
深く抉られた腹部に左手を当てる。
鎧は粉々に砕け、微かに焦げ臭い。
痛覚は……麻痺しているのだろうか、傷口に刺さった鎧の残骸を抜いても何も感じない。
「……呆気ない、な」
周囲の怒号がまた、遠く聴こえるようになった。
無造作に伸ばした右手の指先から徐々に血が抜けていくのを、ただただ無表情に見つめていた。
気付けば、腹部からの出血は血溜まりとなり拡がり、頬にまで達していた。
「…ああ、」
俺は、死ぬのか。
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