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五感全てを研ぎ澄ます。
相手が得物を持っている以上、徒手空拳であるこちらはかなり不利を負っている。
加えて相手の早さは空間的な概念がない。
離れたと思えば、既に懐に潜り込んでいるなどという事態もありえるのだから。
……眼だけでは、足りない。
空気の僅かな動きを肌で感じ、後方に顕れた青年の払いを避ける。
そのまま半回転。軸足を蹴り上げ跳ぶ。
青年の横顔に向け踵を振り降ろしたが、既に青年はそこには居ない。
行き場のない一撃は花園の地を隆起させた。
ーーー早さでは勝てん。反応を上げろ。
「わかってる……ッ!!」
言葉と共に、後ろに跳ね跳ぶ。
先刻まで自分がいた場所に、上空から黄金色の一閃が振られていた。
「……強いね、お兄さん」
自分の後から落ちてきた帽子を片手で受け取りながら、青年は笑う。
黄金色に輝く紋様は先程よりも強い光を放っていた。
沸き上がる高揚を抑えきれず、駆けた。
青年はその場を動かず、迎え撃つ。
拳を振るう為に踏み締めた足元はひび割れながらめり込み、青年が振るった紋様の軌跡は小さな衝撃波となり、周囲の花々を散らす。
花吹雪のように舞う花弁、息をつく暇もない攻防の嵐。
目元を霞む一閃を皮一枚犠牲に避けながら、反射的に攻め入る。
一瞬でも躊躇えば、体のどこかが持っていかれるだろう。
……これが、神使同士の戦い。
「……ッと、さすがに……キツい、なッ!!」
大振りに横に払われた紋様を跳び、避ける。
その隙に、青年は肩を軽く上下させながら、距離を離していた。
「悪いけど……俺はあんたみたいな無尽蔵なスタミナなんて持ってないんだ。
……見逃すなよ」
青年は紋様を前に掲げる。
黄金色の紋様が橙色に染まり始め……一言、呟いた。
「……"幻月"」
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