「城壁の破壊者」

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地を押すように右手に力を込め、少しだけめり込んだ手のひらを支点に身体を持ち上げ、右腕を回す。 遠心力を得た身体はコマのように回り、まだ動く方の足で青年の足を払った。 「ぅわッ……たっ……!」 情けない声をあげながら青年の足はもつれた。 軌道が変わった紋様が側に落ちるのを尻目に立ち上がり、倒れ込むように拳を振るう。 「ぐ……ぁ……ッ!!」 骨を折る確かな感触が拳を伝う。 吹き飛び、青年は花を散らせながら転がった。 ふらふらと立ち上がり、脇目もふらずに青年に背を向け……花園の入り口へ向かう。 花園の入り口まで、そう遠くはない。 だが片足を引きずりながらでは……とても、遠く思えた。 (ほらすごいだろ!マルス!ここにひみつきちをつくるんだ!はやくこいよー!) (ま、まってよ……うわっ!) 足を引きずる自分を、二人の小さな少年が追い越していく。 花園を駆け回る一人を追うように続くもう一人は、自分の目の前で転んでしまった。 (ぅ……うああぁあん!いたいー!) (わわ、ごめん。ごめんな、マルス。……ほら、おんぶしてやるから!帰ってかあさまにみてもらおうぜ) (……うん) 少年たちはゆっくりと入り口から出ていく。 ……小さな頃のカイルと、自分。 ふと、視界の端に誰かが映る。 (カイル、そのままじゃ風邪を引く。 アリシアも心配してるから、帰ろう) (……マルス。 俺は……俺は、軍に入るよ。 東部の人々が、父様と母様が……こんな、こんなに理不尽に殺されちまうなんて馬鹿げてる。 軍の武具を扱う店を出すんだ。稼いで稼いで……ここの人たちを救ってみせるよ) そう言って、カイルは豪快に笑った。 ……この頃からだった。 カイルが、不釣り合いに豪快に笑うようになったのは。 これは、最初の戦争が起きた後のこと。 また別の場所では、アリシアと自分の姿があった。 (兄さん、また戦争に行くの?) (……ああ、ごめんな。 大丈夫だ、ちゃんと帰ってくるから。 セルゲイさんと、ミリーアさんの為にも……この戦は負けられない) (兄さん……、ううん。何でもない。 おいしいごはん作って待ってるから……ちゃんと、帰ってきてね) ……全て、此処であった過去の記憶。 「こんな、時に……昔の事を、思い、出すなんて……な」 絶え絶えの息を呑みながら、呟く。 ……ああ、自分は。 走馬灯の中を、歩いている。
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