「城壁の破壊者」

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「俺は……死ねない、死ぬわけにはいかない」 ぼう、としてしまいそうになる自分を戒め、歩を進める。 (兄さん……私ね、ここが好き。 いつか戦争が終わったら、ここに皆でピクニックに行きたいな) ……抑えても浮かびあがる記憶は。 (マルス!見ろよ!ほら!俺達が子供の時に作った秘密基地!……懐かしいなあ、まだ残ってるとはなあ) 二人のこと、ばかりだ。 「消えろ……消えろ……!」 足元だけを一点に見つめながら歩く。 ……そうでもしないと、壊れてしまいそうで。 「頼む……消えてくれ……」 ……足元だけを見る視界に、黒いブーツが映った。 「……もう、戻れないんだよ。 お兄さん」 よろめきながら、顔を上げる。 腹部に手を当て、口から一筋の血を流しながら、青年は紅く染まる紋様を手にしていた。 「……あんたは、ただ。 押し込めなければよかったんだ。 そういうものだと諦めて……流されていなければよかったんだよ」 帽子の影を落とし、青年は呟くように語る。 「……"アレス"、"アレス"!!」 吐けど、荒げど。 力は……アレスは応えなかった。 「……無駄だよ。お兄さん。 アレスは腕と足を一本ずつ切り落とされてる。本当ならあんただって、ショックで死んでいても不思議じゃない。 ……あんたは今。 ただ、気力だけで立ってるんだ」 「アレス!アレス!!……くそ!くそ!!くそおぉお!!!」 紅い紋様が、胸をゆっくりと貫いていく。 まだ、死ねない。 死ねないんだ。 「少し振り返るだけで。 あんたは、日常に戻れたんだ。 ……こんなことには、ならなかった」 帽子の影に隠れて、青年の表情は見えない。 「……アリ、シア……カ、イル……、」 ……ゆっくりと、意識が遠退いていく。 「……ぉ……れは、」 ……もう、声も出せなかった。 倒れこみ、手を伸ばす。 青年の後ろ……花園の入り口で、二人は静かに笑っていた。 (まったく……マルス君はしょうがねえなあ) (ほら、兄さん……帰ろう) 「…あ………ぁ」 「……ごめんな、アリシアさん。 約束、守れそうにない」 霞んでいく意識の中で……青年はそう、呟いていた。
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