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(兄が、いるんです。
病気がちな私をいつも気遣ってくれて、私の薬の為に戦争に出てお金を稼いでくれているんです)
(いいお兄さんだね)
(……でも。兄が心配、なんです。
兄は……私は、兄がいつか……居なくなってしまうんじゃないかって。
私なんかの為に、兄は変わってしまって……)
(……気のせいじゃないのかな)
(気のせいなんかじゃありません!
兄は……その、家を出る時……いつも、笑うんです。
まるで……おもちゃを貰った子供、みたいに)
(……そっか)
(あっ……その、ごめんなさい。
今日会ったばかりなのにこんなこと……失礼でした)
(うん、決めた)
(……え?)
(俺が、そのお兄さんを助けてあげるよ)
(……あの、でも、)
(……きっとね、そのお兄さんは何も変わってないよ。
ただ……一人で全部抱え込んで、一人で全部解決しようとしてるだけだ。
……こんなに心配してくれる可愛い妹さんがいるってのにね)
(あの……でも、今日会ったばかりなのに、そんなことは……)
(いいんだよ、俺の仕事のついでに……ってなるけど、それでいいよね?)
(……はい、お願いします。"ロク"さん)
(ああ、約束だ)
花園は先程の闘いで荒れて、もうその名に相応しい場所とは言えない。
青年はあれほど激しい闘いの中でも……両者が互いに意識して避けていた場所で、帽子を深く被り、物思いに耽っていた。
「……慣れないな、幾らやっても、こういうことは」
誰とはなしに青年は呟き、
程無く消えた。
青年の消えた場所、荒らされた花園の中で唯一被害を受けていないそこには。
白いアイリスの花に囲まれ、寄り添うように眠る二人の姿があった。
『城壁の破壊者』
ーーーーーーー了。
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