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霞んでいた視界が徐々に鮮明になっていく。
冷たくなっていた手足の先は温かくなり、無数の傷も塞がっている。
身体はまだ軋んでいるが、充分に動くことが出来そうだ。
ふらふらと立ち上がる。
血溜まりの上をぱしゃりと一歩踏みしめたところで、意識が覚醒した。
身体中が焼けるように熱い。
そして、これまでとは明らかに違う何かが……力が、溢れ出てくる。
「覚悟ォォオ!!!」
後ろから敵兵が突進してきた。
重心を少しずらし、避ける。
敵兵の剣が空を斬る音を耳元に感じながら、そのまま相手の胸元に掌底を突き出す。
その一撃を真芯に受けた敵兵は、まるでボールの様に吹き飛んでいった。
「な……!?」
……吹き飛ばして、距離をとるだけのつもりだった。
突き出した掌底は、何度剣で斬りつけてもけして砕けない鎧を、簡単に砕いていた。
それどころか、吹き飛ばされた敵兵はぴくりとも動かない。
その光景に困惑しながらも目は離さず、近場に落ちていた自分の剣を拾い上げ、そのまま近づいた。
依然倒れたままの敵兵の首元に、恐る恐る手を当てる。
「……っは!ははははは!!」
自然と笑いが込み上げてきた。
可笑しい。おかしくて可笑しい。
その笑い声に気付いた敵兵の群れがこちらに向かってきた。
なんだこれは。
何が、どうなってしまったのだ。
迎え撃つ様に駆ける。
……いや、いい。
これでいい。
先頭の敵兵から順々に剣を振り回す。
まるで紙を斬るような、そんな感覚で鎧ごと斬り倒されていく敵兵を視界の端に捉えながら、次の標的へと駆ける。駆ける。駆ける。
もっと……もっと、手応えのある相手は。
例えば……先程の、彼女の様な……。
暫くして、仲間たちの歓声が聴こえた。
その音で我に返った彼は。
死屍累々の地獄の中ただ独り、立ち尽くしていた。
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