「城壁の破壊者」

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「……ルス!マルス!」 カイルに肩を揺さぶられ、我に返る。 どうやら少しばかり、顔をしかめていたらしい。 「おいおい、魔法だなんて冗談に決まってるだろう……本当に大丈夫か?」 気分を悪くさせてすまなかった、と謝るカイルに向けて手を振る。 「ああ、いや、すまない。 ちょっと……ぼうっとしていたみたいだ」 ……そうか、と口を濁すカイルを尻目に、また思案する。 魔法の類いではない、としたら。 九つの大陸の六番目にあたる"セイクアス大陸"。 その海沿いに位置し、他大陸との貿易が盛んな我がトーアライム国は、異国の者が多く出入りをしている。 そうなると、異国の魔法……いや、あり得ない。 異文化の主な交流は、東西南北に分かれるトーアライム国内の西部。 北部の王都、南部の富裕層にはその影響も多分にあるだろうが、真反対の東部……自分たちの住む貧困層の商店にそれが並ぶことはまず無い。 無意識に、歯を食いしばる。 仕方の無いことだ。 他国からの襲撃を受けるのは主に、内陸に面し平野の多い東部なのだから。 兵の駐屯地も作られ、戦争が激化する数年前までは「東部は我が王国の誇りある大盾である」と演説していた王を、東部の国民の誰もが信じていた。 ……馬鹿馬鹿しい。 蓋を開けてみれば、自らの財産を戦火に巻き込まないよう国が"無くなっても自国の被害が少ないもの"を東部へと追いやってできた街。 それが、ここだ。
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