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0.「Alea iacta est.」
ーーーとある街の外れの、
まだ人の寝息が聴こえる時刻。
朝もやのかかる幻想的な街の情景には些か不釣り合いな、ぶかぶかの帽子に、ぶかぶかの黒い衣服を羽織った少年が歩いていた。
先刻、ふいに目覚めてしまい、なんの気はなしに部屋のカーテンを開けた時。
光り輝く何かが近くに落ちたように見えたのだ。
その光が落ちたと思われる、その街の噴水広場へと歩み寄る少年だったが
そこには光り輝く何かはない。
ただ、噴水の前に立ち止まる女性が一人、居ただけであった。
だが、少年はすぐさまその女性が自分の探していた何かだと気づく。
絹のように白く美しい衣を纏い、
雄々しくも繊細な翼を背に持ち、
もの憂げな表情で噴水を見つめるその姿は何より美しく。
この世の者ではない、そう幼ながらにも感じる佇まいは。
……たしかに、光り輝いている。
そう、思った。ーーー
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