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1.「Non mihi, non tibi, sed nobis.」
ーーー女性は少年と目が合い、
その瞳を丸くさせた。
……暫しの沈黙の後。
私が視えるのか、と
女性は少年に問いた。
少年は吸い込まれるような女性の瞳から目を離さず……小さく、頷いた。
女性はああ、と呟きながら力無くその場に座り込み、両手で顔を覆った。
主よ、何故このような幼子に……と、嗚咽を漏らす女性の表情は見えない。
ただ、泣いているようだった。
少年は突然泣き出してしまった女性に驚き、駆け寄る。
どこかが痛いのか、なにか自分にできることはないかと。
しどろもどろになりながら、少年は女性の背中を擦る。
少しだけ落ち着きを取り戻した彼女は。
……優しい子、と微笑み、静かに少年を抱き寄せた。
貴方に使命を負わせてしまう私をどうか、許してほしい。
そう、耳元で囁いて。
花のような香りの女性に抱かれ、
高鳴る胸の中……少年は何もわからずただ困惑していたが
……この人が、
笑顔になってくれて良かった、と。
熱が上がった顔を背けながらまた、
小さく頷いた。ーーー
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