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車を脇に寄せ、エンジンが止まる。
スピーカーから聴こえてくる聴き覚えのあるナンバーは申し合わせたように「Someday My Prince Will Come 」が流れていた。
「誰にも見せたくない。そう思ったのは本当です。最近の貴方はそんな表情をしている。」
「宇野さん...」
黒い双眼が僕を捉えて離さない。
「金沢さん自分の癖知らないでしょ?リップやグロス塗る時、一緒に口開いてるの。」
「えっ!?そうなんですか?恥ずかしい...」
反射的に唇に手を当てる。
その手をそっと取られる。
「隠さないで......」
宇野さんの距離が近い......
暗い車内、きっと僕の顔は真っ赤になっているのだろう。
僕は悟られないよう、そっと俯いた。
「貴方の唇は本当に綺麗です。仕事中に見せるその瞬間は、僕は貴方が欲しくてたまらなくなるんです。」
「あ、あの......」
「嫌なら拒んで下さい。でも貴方が同じ気持ちでいるなら、
キス...してもいいですか?」
びっくりして思わず顔を上げると、視線が交錯する。
宇野さんの指が絡められる。
僕はそっと瞳を閉じた。
<了>
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