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「えっと、椅子に跨いで座ってくれるかな?んで、背もたれに腕乗せて...」
再び、ストロボが炊かれる。
カメラマンの顔に戻る。
「うん、素敵だ。ちょっと腕に顎乗せて...顔は下向き、そう、あ目線はこっち...」
シャッターが幾度となくきられる。
「アンニュイな雰囲気が出てる。悩ましいね...」
レフ板をずらして、レンズが至近距離にやって来る。
(近い...)
黒いレンズが、僕を捉えて離さない。
まるで宇野さんに見つめられているようで......
ドキドキと鼓動が速くなっていく。
(いやいや、宇野さんはカメラマンの人なんだから...)
愛の囁き紛いの言葉が飛び交うのは、現場では日常茶飯事のこと。
勘違いしちゃいけないよーーー
「もしかして今片思い中?そんな切ない顔してる。いいねそれ、その顔反則。誰にも見せたくなくなるね。」
ふと近づく指先が額と頬に触れる。
触れられた所から熱を帯びていくように、顔が熱くなる。
前髪を掻き分けられた、ただそれだけなのに。
レンズ越しにこの気持ちが、だだ漏れしてしまっていないかだけが気掛かりだった。
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