第0章 消失の予兆

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  『機人』。 それは人の形を模した、人だったモノ。 体表は独特の光沢を放つ銀色の特殊素材で覆われている。 四肢胴体の輪郭のみならず、肉付きのラインまでくっきりと人の姿が再現されているが頭髪は無く、まるで金属製の裸マネキンのような姿形である。 空凪町【からなぎちょう】三丁目の住宅街に突如出現したその機人は、男性を模したパワータイプの機体だった。 荒々しいモーター音を響かせながら、逞しく隆起した両脚で狂ったように地団太を踏む。 頭部を掻き毟った挙げ句に硬質な拳がブロック塀へ叩き込まれ、コンクリート塊が粉塵を吹き上げながら木端微塵に瓦解した。 その蛮行に、もはや人であった頃の理性は片鱗すら垣間見えない。 機人は顔面に光る紅色のアイレンズできょろきょろと忙しなく辺りを見回す素振りを見せ、そして、ある一点を見定めて動きを止めた。  
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