序章

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 人々の生活は急激に破綻していった。  しかし、日本を襲ったのはそれだけではなかった。  日本の象徴――富士山の大噴火である。  江戸時代の宝永大噴火以来なかったそれが、最悪のタイミングで起こったのだった。  周辺県の被害は言うに及ばず。大噴火の二時間後には首都圏上空を噴煙が覆い、大量の火山灰が首都圏の機能を麻痺させた。  電線はあちこちでショート。風力や水力でなんとか細々と続けていた電気の供給は、これで完全にストップしてしまう。もちろん電気の供給が停止したため、ガスや水道もストップしてしまう。  そして、酷い降灰は交通網をも麻痺させる。  この時点で、首都は陸の孤島。その機能はほぼ停止してしまった。  粒子が鋭く固いガラス質な火山灰は、人々に甚大な健康被害ももたらす。  人々が倒れても、しかし病院は機能しない。  噴火はその後も収まることなく、そもそも世界大戦で疲弊していたことが追い打ちをかけ、政府は対策らしい対策を講じることは叶わず。大規模な救援もできぬまま。  悪戯に時間は過ぎ、明かりの灯らぬ地域の闇は濃くなってゆく。  被災地の人々の心の中にも火種が生まれ、急速に育っていった。
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