1.魔法使いとゾンビ

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 空を見上げれば、今にも雨が降ってきそうな曇天。どす黒い雲が空を覆い、今が昼なのか夜なのかさえ分からない。時折、稲妻が光り周囲を浮き上がらせた。  そこは、何処か建物に庭のようだった。異世界を旅するトレジャーハンター、トコリコ・OF・THE・ブレスとその一行が降り立った場所は。 「ここが異世界ねぇ」  赤いジャージにスカートという出立ちをしている女性、千華虎子は初めて訪れた別の世界に感心していた。確かに、より稼ぎがいい異世界に行きたいからついていくとは言っていた。が、本当に異世界を同行できるとは、トコリコは思ってもいなかった。  元看守長のハバ・ネロの場合は国を追放された身分と世界に対する好奇心が働き、トコリコと一緒に移動することができた。けれど、虎子の場合は一方的にトコリコについてきた。自覚はないが、トコリコとの絆である『LINK』はすでに結ばれていた。『似たもの同士』もしくは『好敵手』という絆が。 「それにしても、ここは、どんな場所なんだ?」  雷鳴が轟く中、雷光に照らされるソレをネロは見えていた。彼の目の前には先が尖った棒のようなものがあった。棒といっても、短い棒ではない。十数メートルの高さはある棒だ。棒の先端には電線のようなモノが引かれており、その先は外装がレンガ風の建物に続いていた。煙突が何本も伸び、そこから煙りや蒸気を吹き上げていた。その様相から、そこは何かしらの工場と思われた。 「何を造っている工場なんだ」  外装を見ただけでは、そこで何が造られているのか、さっぱり、分からない。どこかに入り口でもあればいいのだが。トコリコは建物の中の音でも聞こうと耳を壁に当て、身体を外壁にすり寄せた。 「ん?」  外壁に聞き耳を立てようとしていたトコリコは、急に黙り込んだ。しばらく、横を向いて、 「おい。ネロ。一つ、聞きたいことがある」 「何だ?トコリコ」 「人って、壁に半分埋まることができるか?」  トコリコは妙な質問をネロに投げかけてきた。 「何を言っているんだ。壁に半分、埋まるだなんて」  いくら何でも突拍子もない質問だった。ネロがどういうことなのか、聞き返そうとした時、雷光が工場の敷地を再び照らした。  ネロは硬直した。雷光によって見えた奇妙な光景を目の当たりしたからだ。
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