1.魔法使いとゾンビ

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 トコリコが言っていたことに間違いはなかった。壁に『人』が半分、埋まっていた。いや、これは埋まっているというよりも左半身が壁から出ているという表現が正しいかもしれない。いや、それ以前に、それは『人』なのだろうか。顔は普通の人の倍はあり、細い胴体とはアンバランスだった。その上、顔面蒼白で目は白目で血走っていた。 「生きているのか?」  ネロは思わず言ってしまった。その生気が感じられない人と思われるモノに。 「分からん。ただ、さっきからオレ様を見ているような気がするのだが」  生きているのか死んでいるのか分からない人らしきモノを見つめるトコリコとネロ。お互い、この生物とどうコンタクトをとるべきなのか悩んでいた。果たして意思の疎通は可能なのか。 「ん?」  トコリコは急に自分の左側が軽くなったような気がした。さっきまで、壁に寄りかかるようにしていたが、壁が急に無くなったかのようにスッと身体が動く。  妙な感覚にトコリコは壁の方に目をやった。直後、彼は目を疑った。 「ネロ!壁から離れろ!」  トコリコは叫んだ。その声に、ネロはハッとして壁から離れた。そして、ネロも信じられない光景を目の当たりにすることになる。  壁が急に無くなったのではない。トコリコの身体、左半身が外壁にのまれようとしていたのだ。それを、トコリコは勘違いしてしまったようだ。 「ぬおおおお!」  驚くべき事態にトコリコは声を上げると右手の腕輪を発動させた。腕輪が黄金色に輝くとトコリコの右手を包み込み、彼の力を増幅させた。右手を握り締め、トコリコは外壁に強烈な一撃を与えた。外壁は壊れ、幸いなことにのみこまれかけた左半身は無事で済んだ。  その様子を見ていた人らしきモノはブツブツと何かを呟き始めた。何を言っているのか。ただ、一つだけ分かることがある。  この生物が何かを仕掛けてきた。それだけは間違いなさそうだ。  トコリコは左の腕輪をガトリングガンへと変化させると、壁に埋まるそいつに向けて発砲した。だが、そいつはガトリングガンの弾が命中する前に壁の中へと姿を眩ました。外れた弾は、そのまま、近くにあった避雷針に命中し、それを壊して終わった。
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