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何かがおかしい。壁の中を自在に移動することができる生物なのだろうか。トコリコはかつて、影のように薄い存在だけの生き物が暮らす世界や平面の世界に住むのは出会ってきた。しかし、ここは明らかに三次元の世界であり人工的に建造された建物がある。ということは、建物を建てられるほどの知能をもった生物がいるはずだ。そうなると、トコリコを壁へと引きづり込もうとしたモノは何だったのか。善意を持っているとは思えなかった。敵意を持ってトコリコを壁に引き込み閉じ込めようとしていた。
「トコリコ。どうやら、俺達は歓迎されていないようだ」
ネロは看守服の内側からロープを取りだし建物の上を見た。
屋根には人らしきモノが立っていた。らしきモノという言い方をするのは、人の姿をしているが、どこかが異様であった。それこそ、輪廻の国の住民のように。しかし、あの世界の住民は姿こそ、異様だれあれど自己の意識を持ち合わせていた。それに対して、人らしきモノ達は意識でもないのか白目を剥き口は開いたままだ。そして、彼らは多種多様な『杖』を持っていた。ブツブツと何かを呟いていて、良い予感はしない。
突然、彼らの目の前に火の玉が出現した。何もない空間に生み出された火の玉は操られているかのようにフワフワと浮いていた。彼らは各々が持つ杖を振り翳した。すると、出現した火の玉は一斉にトコリコ達を狙って向かってきた。
「チャージ×ウォーター」
トコリコはとっさに左腕をチャージガンに切り替えると、向かってくる火の玉に狙いを定め撃った。チャージガンから水の弾が発射され、火の玉を相殺させる。
「拘束術」
火の玉が出現したのはある意味、有り難いことだった。雷光が照らす度に動いていたら、あまりにも効率が悪い。ネロは火の玉で周囲が明るく照らされている間にナイフを投げ屋根から突き出していた煙突に突き刺す。ナイフの柄にはロープが結わえ付けてあり、ネロの手元までそれは伸びていた。ネロはロープを片手に駆け出した。
ピンと張られたロープは煙突に刺さったナイフを基点とし屋根を這うように彼らの足元を進むことになる。
「足縄崩し」
彼らは足元をすくわれバランスを崩し、まるで雪崩のように屋根から落ちてきた。
ネロは違和感を覚えた。彼らは落ちたのにも関わらず着地の体勢をとろうとしなかったことに。これでは、落下ではないか。
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