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プロローグ
俺は何処にでもいる平凡な中学生を目指している。平凡な日常を手にする為に俺は今、自分の家の台所にいた。
目の前には母親の後ろ姿。トントントントンと音がして包丁で何かを切っているのがわかる。しかしそれが何なのかは母親の姿に隠れて確認出来ない。
「母さん」
俺がそう呼びかけると、母親はこちらを一切見ずに
「またいつもの?」
呆れたような感じで言ってきた。
母親にはわかっていたのだ。俺が何を言いたいのかが、それもそのはずで、俺は毎日のように同じ事を繰り返し母親に言っている。
そして何度もあしらわれてきたが、それでも俺はあきらめずに言う。
「母さんは、父さんのところには行かないの?」
「行かないわよ」
そしてやはり一蹴される。いつもの俺ならこれで終わるのだが、今日の俺は少し違う。
「なんで行かないの?」
「中学生の息子ひとりだけ置いて海外になんて行けるわけないでしょ」
「俺の為を思うなら」
「アンタの為にお母さんは今この家にいるの」
「俺の為?」
「そうよ。アンタに食べさせる為の夕食を今作ってるのよ。だから邪魔しないでちょうだい」
言われてみれば確かにそうだ。母親は今、俺の為に夕食を作ってくれている。
勿論俺自信料理が出来ないわけではない。だが、それは簡単なものだけで到底母親の腕にはかなわない。
そう思いながら俺は黙ってその場をあとにし自室に戻った。
その日はおとなしく母親の作った夕食を食べ、風呂に入り、眠った。
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