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ドアを開けたはいいが、バランスが上手くとれなくて中に入れない。
「ごめん、重かった?」
小牧先生はそう言って、机の上に置いた眼鏡を再び掛け直すと歩み寄ってきた。
私が必死に抱え込んでいた本を意図も簡単に持ちあげられ、あんなに重かったのにと心の中で呟く。
自分のデスクの上に小さく音をたてながら置くと、ぐっと伸びをした。
短いため息を吐き、きっちり締められていたネクタイを少し緩ませながら私に向き直る。
「高科さん?どうかした?」
「…いえ、何でも」
まあ、男だもんね。
そう頭の中で分かってはいても、ちょっと納得いかない。
小さく手招きをされ促されるまま中に入ると、白い湯気の立つ暖かそうな紅茶が簡易テーブルの上に用意されていた。
立ち込める香りはアールグレイ。
甘いけど、独特な強い香りが部屋の中を満たしている。
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