第1章

2/22
前へ
/23ページ
次へ
ここは広大な海に浮かぶ実りの島。ラーナと呼ばれるこの島は現在七代目のラーナ国王が治める平和な島国である。国は四方を囲む豊かな海と島中に生い茂る植物の恵みに生かされ、人々は母なる海と大地を育む太陽を国の象徴として崇めた。 偉大なる恵みは全ての民にとって自らの命の根元そのもので、この島国の民ならば誰もが等しくもつ褐色の肌と海色の瞳こそ太陽神サーラと海洋神グーナの溢れる幸福の証であった。 「ーー太陽神サーラ、彼はまばゆく強い信念を人々の体に焼き付けた。それを見た海洋神グーナは人々が何よりも深い慈愛を育むことを願って海色の瞳を授けた。これがラーナの民の起こりであり証である」 少年は分厚い書物を自らのため息と共に閉ざした。今しがた彼が口にした文章はこの国のものなら誰もが知っているラーナ伝説の一説である。 「褐色の肌はサーラの守り。海色の瞳はグーナの愛。それこそがふたりの神に愛された印、かーーーー何度読んでも嫌になる話だ」 少年は口元を歪めて言った。ほの明るい部屋、と思われる空間。天井の一部にある穴や亀裂から所々淡い筋をつくる光から察するに、今日は暑さはさほどなく(と言っても灼熱常夏で暮らすこの島の人間にとって、だが)時はまだ日の高い昼頃と思われた。 少年は石造りの室内を歩き回っては別の本を棚から引き出し読んでみたり、カメに蓄えた水をぐびりとのみこんでみたり、と思ったらテーブルに広げた工具で拾ってきた貝殻を削ってみたりととにかくせわしなく動く。 静かに読書をするのも、原価ゼロの品々をいじくるのも少年の趣味ではあるのだが、彼は普段からこう動きまわっているわけではない。 むしろ、性格は内気でマイペースな普段の彼ならばこんな風に日の光の穏やかなときは自宅の外の木の下で昼寝するのが常。ーーただ、ラーナ伝説に関する本を読んだあとはいつもこうなのだ。 「ーーっ、駄目だ。集中できない」 少年は倒れ込むようにして仰向けに寝そべった。ギリギリ日の当たらないその場所は体に触れる石の感触がひんやりと気持ちよくて、少年の乱れた心も一緒に冷めていくような、そんな気がした。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加