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「ーー新しいバングルを作ろう」
唐突な呟きはとにかく気をまぎらわせたいがための思いつき。少年はのそりと体を起こすと部屋のすみにある木箱を開けた。その箱は少年のお手製でーーと言うか、この部屋にあるものは殆んどが彼の作品なのだがーー中にはこれまでに外から採集した貝やら骨やらが溜め込まれている。
「あー、材料足りないな」
落胆の表情をみせる少年。またもため息をはくがバングルを作りたい衝動ははいまだ収まらない。
「最近猛暑が続いてあんまり外に出てなかったからなーーーー今から取りに行くか?」
少年は普段からあまり暑いと部屋から出たがらない。日が嫌いなわけではないが得意でもないからだ。ーー幸い今日は日差しも比較的に弱い。少年はぽっかりと口を開けた出口に目をやると考えるそぶりをみせる。
本音を言えば行きたくない。あの本を読んだあとだからこそ尚更に。しかし、日中に暇をもて余す彼にとって趣味の作品作りが出来ないのは非常に困る。
「ーーいや、だめだ。今日はーーーー夜まで待とう」
結局彼は日が沈むのを待つことにしたようだ。少年は無言で立ち上がると再び本棚に向かい一冊の本の背表紙をなぞり、そして取り出した。
「ーーーーラーナ伝説」
角は擦りきれ古ぼけた重たいそれは最初に彼にため息をつかせた本。彼が最も憧れ、最も嫌うその本は裏表紙をめくったところのちょうど真ん中にかすれた文字が刻まれている。
“ラグナ”
「どうして俺はーーーー」
悲しげに呟く少年。歯を食い縛り少年は乱暴に本を閉じると押し込むように本棚へと戻す。外部から聞こえてくる音は風の音のみ。ーー少年はひとりだった。
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