第1章

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町では正午を過ぎると王宮近くに設けられている中央広場が人の波に飲まれる。人々の目当ては日替りでやってくる雅商(ガショウ)たちだ。 雅商とは主に芸事を見せることで生計を立てるもの達の集まりのことで、例えば女数人で舞を披露するものや剣舞を舞うもの、中には手品の類いや占いなどを披露するものもいる。演技、演舞を専門とするものは大抵は一座で広場にやって来て独自に簡易の小屋を立て、入場料を得ることで客を引くのだ。 彼らは市場のように物品の販売ではなく、日頃培った技術で人々に夢と娯楽を与える仕事。けして楽なものではないが大成すれば王宮にだって招かれる名誉と大金を得ることもできる職だけに、年々雅商の数は増え今では島中の羨望を受ける花形職業だ。 もちろん、だからこそ島のあちこちにある広場のなかでも島一番の広さと立地を誇るこの広場には並みの雅商では立つことができない。そして、この中央広場ではやってきた雅商たちが正午から活動を始めるのだ。 故に昼時になれば広場は灼熱の太陽にも負けない活気に包まれる。あるものは贔屓の一座を見るために、あるものは恋人との逢瀬に、あるものは夢を見るために。当然、それは今日も例外ではなくーーーー 「きゃあ!ジーナさんだわ!」 「ジーナさん?!あぁ今日もなんて素敵なのかしら」 「なにっ。ジーナだって?!今日はジーナがいるのか。こりゃついてる」 「おい、ジーナだって!行こうぜ」 ざわめきが広場に脈打つ。その人物が現れるや、広場は慌ただしく動き出した。どうやら広場の一角にその人は予定外に現れたらしい。一層強い熱気と熱い眼差しを受ける“ジーナ”
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