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―芸術部 西館専用区画(部室)―
芸術部と言うのは、海国南高校に本部を置き、多くのサークルが集まった集合体の総称で、全国の中学校や高校に支部を置いている。
小説や詩などの執筆に勤しむ“文芸執筆会”、最新の設備を使いプロにも引けを取らない“漫画・イラスト描画会”、政界からも依頼が殺到する“陶芸彫刻会”、“FMラジオ海国南支局”、 “海国テレビ局”、ドラマや映画などの撮影も出来る“映像技術会”、“珈琲&紅茶愛好会”、“知識管理会”、主に卒業生の就職支援を行う“エンジニアリング”、など50以上サークルや局がある。部員も120名と非常に多い。
特に高校でラジオとテレビ局があるのは全国でもここだけ。
部自体は教育委員会非公認だが、40年以上の伝統と格式を持ち、全体収益は月換算で、およそ約1.2億円にも上る為、ブルジョア部と呼ばれる所以になっている。
多数の条件をクリアしなければ入部出来ず、已む負えない理由が無い限り、一定期間活動していないと強制的に退部させられるなど20の項目に亘る。
芸術部の部室は、西館の最奥に専用区画されたエリアだ。古びた外見とは裏腹に、中は非常に清潔感があり落ち着いた内装、OBや在校生達が製作したインテリアが、部屋の雰囲気に合わせて配置付けされている。強いて言うなら、高級ホテルのラウンジといった処か。
祐介は部室内に逃げ込んで、早々に扉に設置された3重ロックを掛け、そこに凭れるようにして座りこんでしまった。
自分の教室の方角から微かに聞こえる断末魔の叫び。
どうやら彼女の意識が戻り、クラスメイト達を八つ裂きにしているのだろう。今戻れば確実に殺されかねない。
「どうしたんですか?そんなに慌てて…」
祐介が顔を上げるとそこには綺麗な女性が、腰を屈めて此方を覗き込んで立っていた。
「ああ、あすかさんか…。良かったティアだったらどうしようかと」
柴咲あすか。この学校の出身ではないが、海国テレビ局に勤める女性リポーターだ。食べ物全般に目が無く、絶品スイーツともなれば平気で海外まで行く人なのだ。
「ティアちゃんがどうかしたの?また何かヤらかした?相談できる事があったら、お姉さんに言ってみて」
あすかが彼に優しく手を差し伸べたところで、先程入ってきた扉のロックが外れ勢い良く開かれる。
扉に凭れていた祐介は支えを失い、そのまま西館の廊下側に倒れこんでしまった。
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