PROLOGUE-STORY

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まだ痛みが取れないのか、篤志は頭を擦りながら“アイツ、何十年前の話をしてるんだよ?”と言う。 そこへ店のドアが勢いよく開かれ、竹刀が入った袋を担ぎ、学生制服姿でロングの黒髪の女の子が“ただいまお父さん”と言って店に入ってきた。 入ってくるや否や店内に居る常連客に、挨拶をして回り篤志の2つ隣のカウンター席に、荷物を床に置いて座る。 洗い物をしていた祐介は手を止め、女の子の顔を見て“おかえり風雅”と言った。 風雅は、通称・ふうちゃんで知られるこの店の看板娘であり、祐介とエレンとの間に出来た愛娘でもある。 風雅は父親である祐介にオレンジジュースとクッキーを注文する。 祐介は言われた通り、クッキーを三枚皿にのせ、冷蔵庫から取り出したオレンジジュースのパックをコップに注ぎストローを刺す。いつもであればこれで完成なのだが、今日はエレンが白い封筒をそれにそっと添えて、“今日も学校お疲れ様”と笑顔で言って風雅に差し出す。 ワクワクしながら礼儀正しく待っていた風雅が、添えられた白い封筒を見た途端、封筒を持って席を立って、飛び跳ねながら笑顔で喜んだ。 「やったー、お小遣いだ。何買おうかな?もうすぐ期末だから、文英堂の参考書買おうっと」 それを聞いた篤志が笑って、“もう少し子供っぽい物は買えねえのかよ?服とかアクセとか?”と言った。 祐介も小さく溜息を吐くと口を開く。 「何処で育て方を間違えたのか、随分と勉強好きな子供に育っちまってな。俺らがガキの頃はゲームとか漫画とかを買ってたんだけどなあ、時代も変わったって事か?」 ふと風雅を見ると床に座り込んでいる。どうやら嬉しさのあまり、滑って尻もちを着いたらしい。 お尻を擦りながら席へと戻る風雅、“おじさんが擦ってやろうか?”と言う篤志に対して、彼の顔面に拳を入れ“セクハラです”と一蹴した。 頭を擦っていた篤志は、今度は鼻を擦りながら、隣でちゅうちゅうとジュースを啜る風雅を見て、声をかける。 「そういやぁふうちゃんは、お父さんと同じように小説を書くのか?」 それを聞いた彼女は啜るのを止め、篤志の顔を見て眼を瞬かせ、祐介に問いかける。 「え?お父さんって昔、小説書いてたの?」 続きの洗い物をしていた祐介が、彼女からの問いに静かな口調で、“今はもう書いてないけどな、でも昔は書いてたぞ。長編小説だが…”というと、彼女は凄く意外という表情で驚いた。
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