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第1話 親友~BEST FLIENDS~
―2003年2月29日 11:30 海国南高校―
まだまだ肌寒い風が吹く2月下旬、海国南(カイコクミナミ)高校では日曜日にも関わらず、体育館内で卒業式の予行練習が行われていた。しかし日曜日ということもあり、学校側も最初で最後の私服登校を許可したのだった。
そんな予行練習も終り、個々自分達の教室に戻る生徒達。
この後、卒業式前日の臨時のホームルームが行われるからだ。
いつもの日常と変わらない、騒がしい教室。
違うのは生徒達の話題だ。今までの学校生活の思い出話や卒業後の進路などで大いに盛り上がっていた。
そんな中、1人の童顔で華奢な少年が、机上に堂々と足を乗せている青年に声を掛ける。
「神崎君は卒業後、何処に進学するの?」
神崎とそう呼ばれた青年・神崎祐介は、静かに目を開け少年の方を見て口を開く。
「おう武蔵国都にある文芸の専門学校への進学が内定済みだぜ。そういう芳季はやっぱり祖国に帰っちまうのか?」
声を掛けてきた芳季と言うのは、祐介と同じ海国南高校の3年1組のクラスメイトだ。
外見が祐介と対照的に非常に幼い為、時折小学生にも見間違えられやすいが、絶対音感を持つ天才ピアニストにして絶世の歌声を持つ為、校内では絶対的な人気を誇っている少年だ。
「ああ帝都オーケストラ楽団へ、抜擢されちゃって…」
芳季はこの国の人間ではない。日本の北隣りに位置し、自然をこよなく愛する軍事国家“蝦夷帝国”からの留学生だ。
蝦夷帝国は、非常に広大な領土を保有する国で明治維新以降、日本と友好関係を築き親日国として、軍備を持たない日本に寄り添いながら、今日に至っている。
芳季が言い終わらない内に、祐介の視界から彼は消え、換わりにマイクを手にした少女がそれを祐介の方へと向けて、リズミカルにニヤケ口を開く。
「ヘーイ神(カン)さん、私の取材のお時間ですよ。まずは卒業後、誰と結婚するつもりですか?」
祐介は今まで芳季と話していた筈だが、祐介がパチリと目を瞬かせた時には、既に報道部という腕章に、黒いスーツで身を包んだ少女に切り替わっていた。
一瞬の出来事に唖然としながら祐介は、少女を見つめる。
「すまん始めに1つ聞いていいか?俺は今、芳季と話していた筈なんだが…」
祐介の言葉に少女はキョトンとした表情で、教室の後ろの方を指し“あそこで伸びてる”と言った。
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