第一部 始まり

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「ふ~、相変わらず今日も何も無かったな。」 俺は屋上で外の景色を眺めながらそう呟いた。 この病院に勤務してから早3ヶ月だ。 こんなド田舎に緊急病棟があるのもどうかと思うが、とりあえず給料もまずまずの値だし、特に不満という不満は無い。 ま、強いて言えばド田舎だから仕方がないが緊急病棟というわりには来る患者みんな、たいした怪我じゃないからみんながよく想像する息詰まる展開ってのがないぐらいか…… いや、ないに越したことはないんだが… ともかく、そんな感じの病院に勤務している。 そもそもこんな仕事をやるキッカケになったのは前に働いていた病院の医院長に 「もっと沢山の命を救いたいんです!」 …と言ったのがそもそもの理由なんだが、医院長にその事を言ったら 「お前はまだ若いからな…」 の一言で突っぱね返された。 そのことに対して熱くなった俺は医院長と言い争いになって気付いたら田舎のこんな名ばかりの緊急病棟に飛ばされたってわけ… なんかな、こんなはずじゃなかったんだがな。 ま、お陰であのウザイ医院長ともおさらばになったし、ここのほうが気が楽だし。 しかしな、ここまで平和だといい加減萎えるよな。 特にそんな楽しいことも無いし、あるとすれば患者さんの誕生日パーティーぐらいか。 そんなある日あの事件は起こった。 その晩は俺が遅番で他には7つ年上先輩のアレックスと俺と同い年のエルザしかいなかった。 アレックスは俺の愚痴をよく聞いてくれるし仕事をよく手伝ってくれる頼りになる先輩だ。 ただ酒癖がちょっと悪いのが玉に傷。 エルザは俺がここに飛ばされた時に一番最初に話しかけてきた看護婦だ。 最初は(あ~…なんて綺麗な人だろう)と思ったが…それは見た目だけだった。 しゃべりは悪いし俺より力持ちだし何かと俺にちょっかいをかける。 …ま、たまに優しい所もあるが全体的に考えるとそんな事は忘れてしまう。 だが、こんなやつだがそんなに仲は悪くない。 むしろ仲は良くて一時期は恋人同士と勘違いされたぐらいだ。 ホントいい迷惑だ。大体、顔は綺麗だが俺の趣味じゃない。 とにかくその日は俺ら三人と警備員のおっちゃんしかいなかった。
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