希望への道

6/6
前へ
/129ページ
次へ
「…まだ死んでおらんよ」 店主はエルザが撃つ瞬間に銃を掴んで天井に向けたので当たる事はなかった。 「…!ご、ごめんなさい。てっきり…」 エルザははそう言うと慌てて銃を下に降ろした。 「おい、エルザ…まさか…」 「……えぇ、彼感染してる」 「え!?」 その言葉を聞いて、俺ら二人は店主を見た。 「爺さん…その腕!」 よく見ると右腕に噛まれた跡を隠すように服をかけていた。 「あぁ…一度奴らに噛まれてな…さっきから体中がかゆくなってる…」 「何で黙ってたんだよ!」 「お前達には銃を渡してとっとと追い出すつもりだったからな…」 「どう、まだ持ちそう?」 「…長くは…ぅぅ…持ちそうに無い……さぁ、私が話す事はもうない。早く行きなさい!」 「爺さん!急いで病院に行けばまだ間に合…」 「無理だ…もう…意識を保つのもやっとなんだ」 その時、店の入口付近からガラスが割れる音がした。 「くそ!さっきの銃声で集まってきやがった!」 店主はそう言うとぎこちない足どりで入口に向かって行った。 「ちょ!爺さん。」 すぐに銃声が聞こえてきた。 「ふん!この!…何している!早く裏口から逃げなさい!」 店のカウンターの前にはおびただしい量のゾンビが溢れかえっていた。 「おじさん!このままじゃ貴方も…」 「わしの事はいい!それより真実を世界に公表すんだ!…頼む!わしの為にも行ってくれ!」 店主は脂汗をにじませながらショットガンをゾンビに向けて乱射していた。 「…行こ。早く逃げましょ!」 エルザはそう言うと店の裏口に向かって走り出した。 「お、おい!置いて行くのか?」 アレックスはエルザを追いながらそう叫んだ。 「彼の犠牲を無駄にするつもり!? 早く…急いで!」 彼女はもう、店主が助からない事は理解しているのだろう…彼女の目は少し潤んでいた。 俺達は裏口から店を後にした。 俺らが逃げている間、後ろではいつまでも銃声が鳴り響いていた。 爺さん…あんたは俺が今まで見た中で一番勇敢でかっこよかったよ。 俺、あんたの分まで生きてみせるよ! 空はいつの間にか赤暗く辺りを埋め尽くしていた
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2607人が本棚に入れています
本棚に追加